作曲をはじめてみよう! 第4回 ~アーティストの作曲術を学ぶ①~

作曲をはじめてみよう! 第4回 ~アーティストの作曲術を学ぶ①~

好きな曲を演奏できるようになったら、次は自分だけのオリジナル曲を作ってみませんか?
この特集では、作曲未経験の方でもすぐに実践できる作曲テクニックをご紹介します。

第4回は「アーティストの作曲術を学ぶ ①」。好きなアーティストの楽曲を分析してみることで、作曲の幅がもっと広がるかもしれませんよ!

今回は、世界的バンドであるザ・ビートルズのメンバー、ポール・マッカートニーが作るメロディーに秘められたテクニックを、書籍『ポール・マッカートニー作曲術』(ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)より抜粋してお届けします。少しマニアックな内容もありますが、ぜひ楽曲も聴きながら読んでみてください。

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歌ものの作曲をする場合、メロディーの音域(メロディーの最高音から最低音までの度数)は非常に重要なポイントとなります。メロディーの音域と歌う人の声域が合っていないと、せっかくのメロディーも活きてきません。

一般の人にも楽に歌えるようにメロディーの音域を調整することが、実はとても重要なのです。ポールはそのあたりをとても大切に考えて、プロの作曲家として音域を計算(意識)したメロディー作りをしています。

音域を狭くする

たとえば、童謡風の楽曲なら子供にも歌えるように、音域を狭めに作曲しています。だから「Yellow Submarine」の音域は1オクターブ(8度)に抑えて書いているのです。同様に、「All Together Now(オール・トゥゲザー・ナウ)」は7度、「Mary Had A Little Lamb(メアリーの子羊)」のAメロは6度と、狭く作られています。

声域の狭いリンゴ・スターがぎりぎり出せるもっとも高い音(ミ)を使うことで、パワフルな楽曲にしよう。そんな計算で、「With a Little Help from My Friends( ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ)」は、ミからミの1オクターブで作曲しています。エンディングのロングトーンでリンゴは精一杯の歌唱を決めました。ジョンとポールが追いかける部分(サビ)は、リンゴの3度上(ソ♯)まで使って、曲が盛り上がるようにしています(メロディーの音域は10度)。まるでプロフェッショナルな作曲家的メロディー作りと言えます。

「平易10度」の法則

あのバラードの名曲「Hey Jude」の基本メロディーの音域は実は、(案外、狭めの)10度で作られているのです。これを私は「平易(へいい)10度の法則」と名づけました。メロディーの音域を10度以内で作れば、歌うのも平易になるというわけです。

10度とは、1オクターブと3度です。男性も女性も、キーの違いはあれ、メロディーの最低音から最高音までの音程差を10度にするのが、一番歌いやすく盛り上がります。

調べてみると、「Hey Jude」、「Yesterday」、「Mother Nature’s Son(マザー・ネイチャーズ・サン)」、「Oh! Darling(オー!ダーリン)」は、法則通り平易な10度で作られていることがわかります。「Ob-La-Di,Ob-La-Da(オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ)」は、童謡的な楽曲なので8度(1オクターブ)に押さえています。

もちろん、裏声でアドリブやフェイク(メロディーを変化させて歌うこと)などをする場合は、この音域より広いものもありますが、基本のメロディーは、思いのほか音域が狭いことに驚きます。ポールはメロディーの音域を相当考慮しながら曲を書いていることがわかります。

譜例1 ポールの楽曲の多くは音域が10度以内
譜例1 ポールの楽曲の多くは音域が10度以内

ポールの作品は、どれもひと味、ふた味とスパイスのかかったメロディーが魅力ですが、実は、素材のメロディー自体は作曲の基本テクニックに忠実で、シンプルな進行のものが多いのが特徴です。たとえば、同じ音をずっと繰り返したり、メジャー・スケール(長音階)の一部分を単純に上下したりといった、単純明快なメロディーが多いのです。

順次進行と跳躍進行の絶妙バランス

ポールのメロディーは、単純に音階に沿ってメロディーが上下する順次進行と、ぴょんぴょん飛び跳ねる「跳躍進行」のバランスの妙でできています。

順次進行とは、音階の隣の音、隣の音……と2度で(上がったり下がったりしながら)進んでいくメロディーのこと。流れるような美しいメロディーが得意で歌いやすいのですが、まったりとして緊張感に欠ける場合もあります。

跳躍進行とは、ドからミ(3度)とかレからシ(6度)のように、音程の離れた音に飛んでいくメロディーです。尖った印象で、パワフルかつスピード感のあるメロディーが得意ですが、歌いづらい場合もあるので要注意です。

ポールは、このふたつのタイプ(順次と跳躍)のメロディーを組み合わせるセンスが抜群なのです。跳躍進行+順次進行をうまく組み合わせることで、元気からの哀愁や、優しさからの激情など、表情豊かなメロディーが作れます。

「Your Mother Should Know」は、1小節目が跳躍、2小節目が順調、3小節目が跳躍、4小節目が順次……のように交互に並んでいます。それによって踊り出したくなるようなメロディーの起伏が楽しめるのです。

「Ob-La-Di, Ob-La-Da」では、サビメロ「Ob-la-di Ob-la-da life goes on bra」の4小節が跳躍進行と順次進行の見事なコラボレーションとなっています。サビ頭のタイトルの部分は、B♭の構成音(シ-レファ)を繰り返す跳躍進行のメロディーです。単純に3回繰り返し、最後はオクターブ高いシ♭に飛び上がります。それに続くメロディーは、順次進行で「ファ-ミ♭-レ-ミ♭-レ-ド-シ♭」と下がっています。何となく童謡のようなかわいらしいメロディーです。

このサビを頭の中で歌ってみてください。跳躍するメロディーの繰り返しで明るく元気に始まり、後半の順次で優しくかわいらしく終わるという流れが実感できると思います。

ポールのメロディーをたくさん聴いていると、ある特徴に気づきます。それは、楽曲の印象的な部分には、ポール流の「3回リピートの法則」が応用されているということです。

メロディーの3回リピート

まったく同じメロディーを繰り返すパターンと、変化させながらリピートする場合があり
ます。「I Want To Hold Your Hand」の「I can’t hide」の3連発は同じメロディーと同じコードで繰り返し、3回目にハモリで変化をつけています。

また、3回リピートをちょっとしたギミック(仕掛け)に使って大成功しているのが、「Back in the U.S.S.R.」です。59秒あたりでタイトルを連呼して変化をつけていますね。

そのほか、「Get Back」、「Yellow Submarine」、「Baby, You’re a Rich Man( ベイビー・ユーアー・ア・リッチ・マン)」、「Drive My Car(ドライヴ・マイ・カー)」などのサビは、わかりやすく3回リピートを応用しています。2回だと少し物足りない、4回だと多くてくどす
ぎる……。3回くらいがちょうどいい!ですね。気に入ったメロディーや言葉が浮かんだら、まず3回繰り返してみる。ポール流作曲術のヒントは案外、そんなシンプルなところに潜んでいるのかもしれません。

作曲や編曲をする際、リスナーが「オッ!」と驚いたり、「なるほど!」と頷いたりする部分を最低1ヵ所は作るのが、名曲を生み出す秘訣です。当然、ポールの曲にはそういった部分が必ずあるのです。そんな「!」(=アイデア)を探し出すのもファンの楽しみです。さまざまなアイデアをランダムに紹介していきます。

メロディーのリズムを変えて印象を強烈に

「We Can Work It Out」のミドルの最後(0:45~)が2拍3連のリズムになって、聴感上は3拍子のワルツのように聞こえます。曲中で拍子を変えれば変拍子となりますが、これは拍子を変えずに、拍の取り方でリズムに変化をつけています。基本の作曲はポールですが、ミドルのメロディーはジョンのアイデア、2拍3連はジョージのアイデアです。

譜例2 「We Can Work It Out」ミドル部のコード進行
譜例2 「We Can Work It Out」ミドル部のコード進行

2度の駆け上がりでサビにインパクトを

「Rock Show(ロック・ショウ)」では、イントロの最後からAメロにつなぐ8分音符で2小節にわたる半音の上行フレーズが曲を盛り上げます(0:05~)。歪ませたギターで演奏されていて、それがロック色をブーストしています。

同じく、「Maybe I’m Amazed」のAメロのつなぎ(0:25~)にも、半音の上行フレーズが使われています。今度は、ピアノの左手で16分音符を強烈にプレイしています。上行のフレーズには、聴き手の心を高める効果があります。

歌詞とサウンドをシンクロさせて印象を強める

「Wild Life」は、1971年のウイングスのデビュー・アルバム『Wild Life』のタイトル曲です。この曲の歌詞で、Stopという単語が使われています。その瞬間、サウンド(リズム)がピタッと止まるのです(2:46~)。

つまり、ストップ(止まれ)という歌詞とサウンド(リズム)をシンクロさせたのですね。この曲をはじめて聴いたとき、このストップの部分で腰を抜かすほど驚きました。それほど、シンクロの効果は大きかったのですね。しかしリズムを止めていたのは、たった1拍でした。たった1拍でも効果は絶大なのです。

今回はここまで。
次回はポール・マッカートニーのコード進行テクニックを分析してみます。



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